未来型「ヒューマン・コミュニティオフィス」の設計思想とソーシャル・ハピネス共創に向けて

以前「オフィス学会」に寄稿した論文です。 体系的「場」つくり理論シリーズのベースにある私の「場」つくり哲学でもあります。 ちょっと読むのには勇気のいるボリュームなので お盆休みにのんびりとお読みください^_^ はじめに 新型コロナウイルスが人類に「試練」を与え続け ている。この「試練」は私たちに、改めて「命」の大切さ、 人間の「尊厳 」、 そして 、 人類レベルでの持続可能なウェルバラ ンス ・ソサエティ の在り方を考えさせる貴重な時間となっている。 昨年の4 月 7 日に続き、今年1月には2 度目の「緊急事態宣言」 が発出され、首都圏では2ヶ月以上の期間にわたり、外出(出社)制限が課せられた。多くのワーカーが、未だかつて経験したことのないオンライン・コミュニケーションツールによる、非対面・交流でのWeb ネットワーク仕事を継続的に経験 している。 従来、決められた時間と決められた場所で、人間が集合し交流しながら働く場所を「オフィス概念」とした、英国産業革命時代からの300年の歴史において、オフィスの概念や働き方ワークスタイルは、時代と共に変遷変化し進化を遂げてきた。 コロナパンデミックの環境下、人々の交流やMeetup が制限された中で、バーチャル・リモー トワークスタイルが定常的となり、物理的な「オフィス」の役割と必要性が問われている。 本稿では、コロナパンデミックがもたらした働き方のパラダイムシフトを踏まえ、「オフィス」の本来機能と役割を再考・考察しながら、『未来型ヒューマン・コミュニティオフィス』の在り方と意味と意義を、スペキユラティブデザイン(問のデザイン)手法により提言してゆく。 1. 「ワーク・トランスフォーメーション」がもたらすオフィス概念のパラダイムシフト  今何が変わりつつあるのか? 日本社会では、「仕事」に対する意識と「働く事」への向き合い方が少しずつ変わり始めている。人命との引き換えに、「働き方改革」の社会気運が高まり、2019年4月1日からは、現代労働事情に即した「労働関連法規」が見直しされつつある。 組織側(雇用者)の責任と義務の範囲が見直され、被雇用者である従業員(社員等)の権利に配慮された、「労使双方」にとっての「働くことの意味と意義」を再考させてゆくきっかけとなっている。中でも、長時間労働の問題は多くの組織に影響を与え、日本の社会意識の象徴ともいえるる「勤勉さ」を超えた「働き過ぎ」問題が、徐々にではあるが改善の兆しがで始めていたところに新型コロナウィルスが人類に試練を突きつけた。 コロナパンデミックは、社会意識を劇的に変えることとなり、人々の経済活動のスタイルや社会常識感を変えてゆく変節点となった。この変節点を起点として、働き方自体も大きく変わり始めた。オフィスに出社して、長時間労働を強いられていた時代から、新型コロナ感染を制御することを目的として、オフィスに出社しない「在宅テレワーク」の働き方が定着することとなった。しかしながら、2020年始めから、多くの組織で導入された「在宅テレワーク」の期間が長期化している昨今、労働者の在宅執務環境の問題や心身疲労などの精神的負荷、そしてオンライン仕事の限界が露呈しつつあり、単純在宅テレワーク・リモートワークの見直し気運が醸成されつつある。 社会では、サードオフィス構想やワーケーション・ワークスタイル、そしてコ・ワーキングやコ・クリエイション型シェアオフィス、そしてバーチャルオフィスなどに代表される、多様でフレキシブルな仕事スタイルへの変移「ワーク・トランスフォーメーション(WX)」が触発されている。 この結果、「決められた時間と決められた場所で、人間が集合し交流しながら働く場所」としての「オフィス」の在り方や価値評価が変質しつつある。 一部の企業経営者は、WXとデジタル・トランスフォーメーション(DX)を掛け合わせれば、「物理場リアルオフィスなどなくても、在宅ワーク等を組み合わせて仕事はできる」との経営判断をするケースもあるようだ。 企業経営者にとって「オフィスの費用」は、大きな「コスト」との意識を持つ傾向があることから、「コスト削減」に直結するオフィス空間スペースを減床させる「誘惑」に、多くの経営職階の人たちは直面している。 既に、現行オフィススペースの面積を半減させる方針を示している大手企業もあり、日本社会での「オフィスの概念」は正にパラダイムシフトの渦中にあると言える。 果たして、この潮流は、「組織に属して働く人々(雇用等労働者)」や「自立的に活動し働く人々(個人事業者等)」、そして「企業・公共・団体・学校等各種法人組織」にとって、更には、日本社会や人類にとってウェル・ビーングを醸成し「幸福な社会」や「幸福な組織」、そして「幸福な家庭」をベースに、全ての働く人々にとって「幸福で豊かな人生を体感できる社会」を共創してゆくことになるのであろうか。 この問いを考えててゆくにあたり、今まで社会が思い込んできた常識感の中で、「オフィスの在り方」、そしてオフィスを利用する人の視点から、人生における「働く」と「生きる」を「人間の在り方」の視座から考察してみたい。 2.「オフィスの在り方」と「人間の在り方」 → 「働く事」と「生きる事」 人生における働く意味と価値とは? 筆者は、「オフィスの在り方」を未来定義するには、オフィス機能を活用して価値創造行動に携わる「働く人々」の意識の変遷を鑑みながら、「人間の在り方」をベースとした考察と、時代や社会事情に適応させてゆくイノベーティブ思考が必要と考えている。 以下は、筆者が日頃より意識している考え方であり、学術的に検証・実証されたものではない。あくまで一実務家としての見解であることを先にお断りしておきたい。 さて、 オフィス機能の一つは「働く」場所と定義してみよう。そこで「働く」主体は、人間「個」であり、企業等の組織は、人間「個」の集合体としての概念的な「器」であるとともに、人間「個」の相互知的交流を通じ「集合知」を蓄積増幅させて、新価値結合たるイノベーションを沸き起こす「場」である。 「場」に集う人間「個」の「働くこと」の本質は、人間が持つ「付加価値創出力」と「新価値創造力」の創発行為・行動により、脳力や能力を、人類社会へ還元してゆく人間個々の「人生の行動・行為」である。 筆者は、この「行動・行為」をベースとした活動は、人間が人生を「生きる事」そのものとの視座でとらえてみると、仕事で「働くこと」と、日常の暮らしや生活してゆく事、つまり「生きる事」は、人生時間の中では同軸でとらえるべきと考えている。 時として、社会から 「貴方は何のために、また誰のために働くのか?」 「なぜ働くのか?」 「働くとは?」 といったいった本質問題が問われることがある。そして、また非正規社員の社会的貧困の実態が報道されるにつけ、労働対価(報酬)の歪みを認識する社会や世間が、何も行動出来ないジレンマを感じることもある。 こうした、社会的な様々なバイアスの存在は、本稿のテーマに直接関係するものばかりではないが、オフィスの在り方と働き方とは密接に関連することも多く、問題提起しておきたい。 本題に戻ろう。社会の常識は、雇用されて働いている労働者(被雇用者)は、労働関連法に基づき、雇用者に管理されて働くことへの当然意識がある。雇用者側には、労働衛生管理責任や、労働基準法に定められている「労働時間」規定等の法令により、労働者を適正な時間労働で働いてもらう責任がある。よって、働く人々の暮らし時間である「生活時間」は、非労働時間と認識されることとなっており、一般的社会常識では、仕事と暮らしは別軸で考えられている。「働き方改革」とした、過剰労働の是正化の流れの中で、適正な仕事時間と暮らしの時間を「均衡」させる「ワークライフバランス」なるコンセプトが社会に浸透しつつある。この理念は首肯されるものではあるが、筆者は、知識労働者に従事している一定割合の労働者にとっては、「仕事時間」と「生活時間」が明確に区別出来ない働き方をしているケースも多く、「仕事時間」と「生活時間」を「調和」させてゆく「ライフ&ワークハーモナイゼーション」との認識をすべき時代の流れを感じている。 この視点で、「オフィス概念」を考えてみると、オフィスとは、働く為の空間・時間に限定された「仕事場」だけではなく、人間が充実して豊かな人生を創造してゆく為の「人生の暮らし場」的な観点を考慮してゆくことが必要であろう。 ただ只管、厳格に「働く」を問うオフィスではなく、暮らし時間の中での「遊び」を意識しながら「活動」する「仕事場所」としてのオフィスコンセプトも、これからの時代に適合してゆくことが予想される。 この「遊び」を意識した仕事観を提起する理由の一つは、人間そのものの特性に起因する。 そもそも、人間とは、ホモ・サピエンス(英知人)であり、ホモ・ルーデンス(遊戯人)であり、ホモ・ファーベル(工作人)でもあり、そしてホモ・シンボリクス(象徴人)と言われる。オランダの歴史学者ヨハン・ホイジンガは、人間を「ホモ・ルーデンス」(遊ぶひと、遊戯人)と呼び、遊び(ルードゥス)こそが他の動物と人間とを分かつものであり、政治、法律、宗教、学問、スポーツなど、人間の文化はすべて「遊びの精神」から生まれた、あるいは、あらゆる人間文化は遊びのなかにおいて、遊びとして発生し、展開してきたものであると主張する。  『「遊び」は「文化」よりも古い。「ホモ・ファーベル」(作る人)よりも「ホモ・ルーデンス」(遊ぶ人)が先にある。』 というのがホイジンガ哲学の大前提であり、 「文化」ついても、そこに遊びの要素を発見できさえすれば、「文化とは何か」ということを解きほぐすことができる。 筆者は「仕事」も「文化」的なものと解釈しており、「仕事=働く」に於ける「遊びの要素」を見つめてみると「仕事とは何か」、また「働く意味とは」といった仕事の本質が見えてくる。 ホイジンガ曰く、『人間は、すべからく「遊者」である! 』。 人間は誰もが、子どもの頃からその原型的な経験を持っておりし、エンタテインメントが生活の潤いとなっている現実を見るに、人間には「遊び」が必要なのである。 仕事を「遊び」ととらえることは、時間を忘れるほど没頭しても、「疲れ」ではなく心地良さや満足感を感じるかもしれない。 現代社会において「仕事」は厳格で神聖なものであり、「遊び」とは正反対の概念である。しかしながら、ホイジンガーの哲学が示唆するごとく、働く人々の意識に「遊び」心を宿らせる「場」を「オフィス」と再定義すれば、オフィスは働く人一人ひとりの「やる気」や「集中力」が高め、幸福意識(わくわく)を誘発させてゆく「場」になるであろう。 3.現代組織社会における「オフィス概念」の思い込み感と「管理・監視マネジメント意識」からの解放 組織社会の常識や通念として、オフィスとは「働く場所」と認識されている。 企業等組織は、常用雇用する所謂「正社員」を始め、期間雇用社員、派遣労働社員、そして業務請負・委託社員などの一部を、企業等組織が定めた「働く場所」に出社または集合させて「仕事」に従事してもらうのが常識的概念である。そして、集う人々の働き方の形態やミッションの違いはあれど、組織に共通している点は、「人間が担う価値創出活動」への期待値であり、組織はその創出された価値に対する「相応の報酬」を支払う資本主義社会の当たり前の構図がそこにはある。 この組織意識の背景には、「報酬」の妥当性を評価し、「価値創出活動」が適正になされているか、そしてその行為・行動が、組織価値の向上と発展に資するものでもあるかの「判断」をするために、組織側が、働いている人々(労働者)を「管理・監視」する意識構造が定着している。 それ故に、働く場所としてのオフィスにおいて働いている人々は、経営管理職階のレイヤーから「管理・監視」されるのが当然と考えている。就業時間内では、働く誰もが「雇用契約」条件に従い、仕事に集中する事が是とされ、就業時間中に暮らし事(いわゆるプライベート)の時間を費やす事は「サボタージュ」ととらえられてしまう組織スティグマが依然として存在する組織は多い。 しかし、長年継続されてきたこの窮屈な「常識」のパラダイムが変質しつつあり、組織側の経営管理職階層の人々にとって、働く場所としてのオフィス概念への思い込みを再認識してゆくことが必要となりつつある。 「経営」は、企業等組織の中で働く人々を「管理監視」統制するだけでは無く、働く人々の創造力を誘発させる「心知の交流場」として、また、「暗黙知のスクランブル交差点」的な「形式知の創発場」としての企業等組織の「場」つくりをしてゆくことが求められる。更に、人間集団としての組織が、歴史を重ねながら醸成してきた「良き文化や風土」は継承しつつ、「悪しき慣行や文化」そして体育会気質的な「根性風土」は適正に改善してゆく事が必要である。組織のリーダーや企業等経営者は、労働者たる働く人々が集うオフィスを「新価値共創に向けた実験場」としての視点を考慮しながら、労働者が「遊びの如く働く」、謂わば、労働者をホモルーデンスの集合としてとらえ、「創造性を高める幸福なオフィスの在り方」を探求してゆくことが重要である。 4.「組織のサイロ化」に迎合した隔離型オフィス空間と、オープンイノベーションを志向した解放型コミュニティオフィス → オフィスは組織別単位で使うものか? 次に、オフィスの空間スペースについて考察してみよう。一般的にオフィスの区画は、「共通目的」を持ってスペースを使用する、同一組織や人間集団が、他の組織や外集団とは隔離させて、限定された人々により利用されるのが通常の形である。 「〇〇会社のオフィス」には、関係者以外は立ち入る事が出来ない。それは、オフィス内には、有形・無形の「営業機密」や「秘密事項」が存在しており、関係者以外への機密事項等の漏洩を防止する事が一つの理由である。また、自組織が不利益となる「情報」を社外に流出させない為の防御策、要すれば、物理的なスペースへの「情報セキュリティ管理」が目的である。ネットワーク社会では、物理場より、デジタル場のセキュリティ管理が重要である事は言うまでもないことであるが。 また、同一組織内でも、「関係者以外」に情報を開示しないケースもある。 こうした光景は、当たり前の意識として「疑問」にも思われていないが、組織自体の情報資産管理へのセンシティブな思い込みが、組織の「意識サイロ化」を助長している側面も否定できない。 こうした意識風土は「隔離型オフィス」を志向させる傾向がある。しかしながら、一方ではオープンイノベーションを志向したオープンオフィス概念も併存している社会の中で、オフィス概念を再考してゆく事も必要である。 果たして、働く場所としてのオフィスは、同一組織の関係者だけが集い、空間を占有し、時間を共有することだけで「機能」を果たしていると言えるのだろうか。 筆者は、この問いに対する社会意識の顕れが、組織社会の共創志向やオープンイノベーション期待感を背景として、「コ・ワーキングスペース」型のオフィス提供事業が拡大しているものと考えている。 しかしながら、現時点では組織社会側の「期待価値」を充足させるまでには至っていないように映る。それは、組織社会側が保守的なオフィス概念から脱却できていないことも理由の一つかもしれない。 では、どのような道筋を示せば、未来型オフィス概念への進化適応が促進されてゆくのであろうか。次節では、この問いを考えてみよう。 5.「未来型オフィス」の機能と役割を担う「コミュニティオフィス」の考察 組織社会では「オフィス」を、働く人々にとっての仕事場所たる「物理的な器」としてとらえる見方が一般的である。そこには、人間の気持ちや心など、人間コミュニティにおける「意識の場」の要素は考慮されず、専ら「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(ビル管理法)に遵法した、スペースや環境配慮が優先される傾向がある。 一方、オフィスを人間が新価値創造と付加価値創出をしてゆく「知的活動場所」ととらえた場合は、より人間オリエンテッドな要素たる、感性・情動や認知心理など、人間の深淵な精神性や尊厳に配慮した「想いの場」としての機能要素を実装してゆくことが必要である。 筆者は、この「想いの場」の概念こそが未来型オフィス概念のキーファクターになると考えている。 「想いの場」の概念オフィスの在り方とは、組織を越境した人々が集い、 お互いの息遣いを感じ、ノンバーバルコミュニケーショ ンができる『気』(活気、熱気、意気、才気、士気)や『オーラ』を交信しながら、安心、安全そして「人間愛」を直接感じられる時空間でのリアルタイム交流により、価値創出の喜びを共感できる「場」といえる。 本稿では、この「想いの場」たるオフィス概念を「コミュニティオフィス」と呼ぶこととする。 6.「コミュニティオフィス」に不可欠な要素「安心・安全・安定・クリエイティブ、そして、わくわくハピネス」コンセプトデザイン思考 筆者は、「コミュニティオフィス」をデザインするにあたり、5つの重要な要素を認識している。 それは、①安心 ②安全 ③安定 ④クリエイティブ ⑤ わくわくハピネスという要素。 個々の要素の意味合いについて敷衍しよう。 まず「安心」とは、集う人々が仕事と暮らしの調和を図りやすい心地良い環境と、ストレスフリーでリラックス感を醸し出す「空気感」を演出すること。謂わば、「心理的安全性」に満ち溢れた時空感の創造である。 「安全」は、コロナパンデミックの中、空間スペースにおける密を回避し、一定のディスタンスを確保できる空間や動線設計の工夫、そして、空間のクリーンエアー・マネジメントの可視化を演出すること。具体的には、高性能HEPAフィルターを実装させた床置き空気清浄機の適正配置や、滅菌照明の導入、什器な器具類の抗菌証明などが挙げられる。もちろん、設備空調の機能を最大活用したうえではあるが。 「安定」とは、安心・安全環境を持続的に継続運用をしてゆくこと。設備や装置を適切に設置した上で、「適正運用」を実践してゆくこと。総務FM部門の管財力が問われる。 「クリエイティブ」とは、設備装置や機器等を利用した安心安全対応に加え、人間の感性を刺激し、人間の潜在意識を誘発または触発させて、人間個の持つ「脳力」や「能力」そして「センス」を顕在化してゆく「場」の演出を意味する。具体的には、五感アプローチ手法やマインドフルネスアプローチ手法などを織り交ぜながら、サイエンス&アートをウェルバランスさせて、心地感とユーフォリア感、そして人間のセレンディピティを誘う「場」の要素と言える。 そして「わくわくハピネス」とは、人間のモティベーションやエンゲージメントレベルを、無意識のうちに向上させ、仕事や暮らしの中での活動を、「楽しさ」や「喜び」あるいは「感動」や「共感」のレベルに感受力を昇華させてゆく演出である。この効果は、仕事に対しては、集中力をフロー(ゾーン)状態にトランスフォームさせて、価値創出行動の練度や閃きの頻度を高めるとともに、人生暮らし時間の充実と「多幸感」に浸れる機会を創出する。 7.人間にフォーカスした価値創造空間としての「未来系モデルオフィス」の仮想デザインと実現可能性 筆者が、未来型オフィスの形態の一つとして提唱する、人間にフォーカスした価値創造空間としての「コミュニティオフィス」の在り方と「場」つくりスタイルを具現化、普遍化し、近未来の実社会に実装してゆくためのディレクションと方法論を「未来型コミュニティ・オフィス」のモデルケースとして実践的デザインコンセプトを示してみたい。 先ず、「コミュニティ・オフィス」に求められるオフィスの在り方と機能を次のように仮定義する。 「コミュニティオフィス」概念のベースラインにある理念は、 ・人間の集い場 ・人間の夢中創造の場 ・自他の区別無く人生時間を共有する場 ・心身健康に配慮されている場 ・心理的安全性に満たされた場 ・知の創造を促進するSECIモデルオリエンテッドの場 ・コーポレートウエルビーンク(組織事業の成功)とエンプロイー・ウェルビーング (働く人々の幸せ)が調和されている「場」 ・SDGsコンセプトにコンプライする「人類幸福実現の場」 これら理念は「超理想」として見えるかもしれない。しかしながら、筆者は、オフィス概念を「働き方」のみにフォーカスさせるのではなく、人間一人ひとりの「暮らし方」、つまり「人生の生き方」の観点をも抱合させたゆとり(遊び)「場」としてとらえてみると、斯かる「超理想」は決して絵空事ではなく、人類として真剣に取り組んでゆけば実現可能な挑戦と考えている。 では、どのようにして、この「理想郷の場」を創り上げてゆくのかを考えてみよう。 8. 社会観察✖️Human&Work Techをベースとした「X-Tech」イノベーションによる コミュニティオフィス=社会「場」の創造 人間の集合である「社会の構造」や「社会意識」は複雑であり、「あるべき姿」を描いてみても、その理念を実現してゆくプロセスは簡単ではない。また、社会生活を送る人々は、一人ひとりが人生創造に奮闘をしながら、豊かで幸せな日々の暮らしを希求・追求してみるものの、その対応手段や解決手法は簡単に見つけられるものではなく、暗中模索しているのが現実社会ではないだろか。 前述したように、「未来型コミュニティ・オフィス」とは「社会場」であり、その目的は、「幸福な社会創造」に資するウェルネス・コミュニティを共創する「場」とも言える。この「社会場」の構造や人々の想い、そして「場」で暮らし、仕事に勤しむ「労働者」の意識感や現実感など、様々な要素を整理しながら「社会観察及び洞察」と「人間観察並びに分析」を掛け合わせてゆく事で、「社会現場」(組織、集団、地域等のコミュニティ)の温度感と空気感、そして意識感の一部が可視化出来るようになる。 この可視化をファシリテートする手法の一つが、Human Tech やWork Techをベースとした、所謂『X-Tech』と呼ばれるテクノロジーである。 ビッグデータの集積とデータマイニング&アナリシス、AIを活用したセンシングデバイスツールの活用による「擬似的測定」手法である。社会事象の動向や人間行動等の観察、そして、オフィス等「仕事場」における、人間の感情や心理的意識、並びに感性や幸福感がもたらす「モティベーション」や「エンゲージメント」レベルを、擬似的仮説測定することにより、「個力」や「チーム力」、そして「組織力」や「社会力」などを類推しながら、組織社会での新価値創造や人間の幸福価値創造向けた「社会場」をデザインする手法である。 ここで、筆者が過去に取組んでいきた実践事例を紹介しよう。 9. ポジティブ心理学や幸福学をベースとした、人間の幸福意識(わくわく)に溢れた「場」つくりと持続的運営 筆者は、企業組織での「総務部長」の立場であった時期に、本社オフィスの移転プロジェクトに携わった。自身としても初めての経験であったが、「社員を元気に」をミッションとして、「感性・五感投資マネジメント手法」と”自称”している「場」つくりメソッドを構築し、結果的に「人々の行動変容」と「組織の価値向上」に繋がった経験を持つ。 当時は、「クリエイティブオフィス概念」を再考し、クリエイティブワーカー主体の組織において、働く人々の「モティベーション」と「エンゲージメント」を高め、幸福意識(わくわく)に溢れる人間「場」つくりを模索した。 筆者自身、「オフィス学」の研究者ではないが、振り返ってみると、実務を通して「オフィス関連学」や「デザイン学」、そして「感性・知性工学」「人間工学」などの領域に加え、「情報関連学」や「脳科学」「大脳生理学」「ポジティブ心理学」といった、「人間科学」領域を統合させた「人と場エンジニアリング」を実践していたように思う。 特に、こだわりを持った観点と視点が、人間「感性」と「オフィス空間環境」との心的相関性の解明試行、並びに「知性空間」の中での、人間「個」の暗黙知を表出化させてゆく「トランザクティブメモリーシステム*」を「場」に実装する試み、そして、組織の人間関係とコミュニティ間の意識交流とコミュニケーションを、「リアルオフィス」と「バーチャルオフィス」のハイブリッドスタイルで実践試行してみることであった。 * トランザクティブ・メモリーとは「誰が何を知っているかを認識すること」。組織内の情報の共有化で大事なことは、組織の全員が同じことを知っていることではなく、「組織の誰が何を知っているか」を組織の全員が知っている概念 (1) オフィスを「クリエイティブ場」に演出してゆくのに不可欠な人間「感性」とオフィス空間環境の相関性 筆者は、人間の「感性力」の大小が、「知的創造性」や「価値創造性」つまり、仕事の生産性や能率性へ影響を及ぼす要素と考えている。「感性」の定義は様々ではあるが、「感性とは感じることの性質もしくは能力」と哲学的定義も存在し、また生理学的には「瞬間的あるいは直感的に物事を判断する能力」と定義されることもある。そして、心理学的には「包括的、直感的に行なわれる心的活動およびその能力」とも言われる。これらに共通するのは、感性を「心の働きのひとつ、あるいはその能力」として捉えていることにある。そして、瞬間的、包括的な判断能力は「知覚」にも当てはまるものであり「印象評価を伴う知覚」と位置づけられる。 思想家のスーザン・ソンタグは、「知性もまた趣味(感性)の一種、つまり観念についての趣味」と述べており、「知性か感性」か、または「理性か情動」かといった二分法では抜け落ちてしまうものの中に「感性の本質」があると語る。筆者もこれに同意する。 感性は「想像力」や「イメージ」といった心の内的な表現にも関わるが、外部からの刺激による「知覚や感覚」で感性の変動を意識することになる。つまり、ここち良さ、快さ、面白さ、美しさ、などの「知感覚」をどのように研ぎ澄ましてゆくかにより、個の仕事力を劇的に向上させてゆく事も可能となる。 これらの感覚には個人差はあるが、「覚醒ポテンシャル理論*」を「場」のデザインに応用適用することで、働く人々のエンゲージメントレベルと幸福意識たる「わくわく感」を醸成し、結果オフィスで働く人々の「感性のエッジ」を研ぎ澄ましてゆくことが期待できる。 *覚醒ポテンシャル理論 心理学者のバーラインが提唱した理論で「人間は単純過ぎるものには快感を感じないが、複雑すぎるものには不快感を感じ、その中間に快感を最大にする」という『ちょうどいい感覚理論』 「感性」を刺激する、ここち良さや快さ、そして面白さや美しさなどの「知感覚」を、「オフィスの空間環境」の設計・デザインに織り込んでゆくことの意味と意義を「人と場エンジニアリング」で仮説検証を進めてきた。 (2) 「知性空間」の中での、人間「個」の暗黙知を表出化させてゆく「トランザクティブメモリーシステム」のトライアル構築と「サイバニクス」並びに「センシングテック」の活用 筆者が考える「知性空間」とは、組織に集い、オフィス等で働く人たち「個々人」の知識・唯識(五感と意識、無意識)、そして「さまざまな想い」が集合・集積した時空間ととらえている。その中に暗黙的に存在する「個知」を「集合知」や「集積知」に昇華させて、イノベーティブな新価値創造活動を刺激してゆく物理的器かつバーチャル意識空間を「オフィス」と解釈し「場」つくりを進めた。 中でも、オフィスに集う「個」の活動価値、暗黙知価値や心身状態を、適切にマネジメントコントロールし、「場」の健康状態や知力コンディションを可視化し、その情報を共通化してゆく手法として「サイバニクス」と「センシングテック」の活用を検討した。 「サイバニクス」とは、ロボットスーツHALで有名な山海嘉之教授が確立した概念であり、脳神経科学・運動生理学・ロボット工学・IT技術・再生医療・行動科学・倫理・安全・心理学・社会科学など、人・ロボット・情報系が融合複合した新学術分野であるが、この技術を用いて開発されているバイタルセンサー(血圧、脈波、心電、体温、血中濃度・糖度等、脳波、体組成...etc) や行動(加速度)センサーそして環境センサーの技術を融合させて、働き方や組織活動が可視化させてゆくことが可能となるテクノロジーである。 また「センシングテック」には、働く人々の仕事力の基礎とも言える「心身健康」をモニタリングできる「バイタルセンサー」を始め、オフィス空間環境をリアルタイムでコントロールしてゆく「空調エアーセンサー」や「光・音・匂いセンサー」、そして「セキュリティセンサー」などが実用化されてきる。これらそれぞれのセンサー等をオフィス空間に実装することにより、組織内における「人と場の活性化及び健全化」を客観的情報として「場」つくりのサポートをしてゆくことが可能となる。 こうしたテクノロジーを基盤とし、知の交流を促す「トランザクティブメモリーシステム」構築のプラットフォームが「パーソナル・インフォマティクスとライフ&バイタルロギングのコンセプトである。 (3) パーソナル・インフォマティクスとライフ&バイタルロギングで働き方改革を仕掛ける意味 パーソナル・インフォマティクス(Personal Informatics) とは、「自己の投影と自己監視を目的とし、個人的に関連がある情報の収集を支援する一つの個人の「情報学」である。 このアカデミアの「知」を、実践オフィス空間「場」に適用することの意味は、働く人々が自立的かつ自律的に成長してゆくことを促し、ヒエラルキー組織での課題感でもある「2:6:2の人材能力ポートフォリオ」を改善してゆく「人財の高度化」に資するものである。その背景には、センシングデバイスと情報処理機器の小型化が進み,個々人の「生活体験」、「行動」や「健康状態」などを長期間記録・保存することが可能となってきた。 毎日の仕事や生活シーンは刻々と変化し、その時流の中で私たちは「生きている」を実感しながらも、過ぎた時間の「自分情報」は殆ど記憶に残っていないが、自己を振り返る機会をリマインドすることで「人生時間」や「仕事時間」を見つめ直し、仕事の能率や働く意識をエンカレッジして、簡単かつ便利に自分情報を入手できる手法が「パーソナル・インフォマティクス&ライフ/バイタルログ」の考え方である。アップルウォッチやFitbit、MEME,Muse...といった様々なセンサーデバイスとアプリは、働き暮らす人々の日常生活の膨大なログを自動的に記録してくれる時代となってきた。この機能をワークプレイスに実装してゆくことで、ウェルネスワークプレイスの「場」つくりと、人財の自律(自立)化に繋がる。但し、このサービス利用には必ず守らなくてはならない事がある。それは、組織社会で働く人たちのプライバシーを「監視」したり「管理」に繋がる使い方は厳に慎まねばならない。 斯かる情報は、あくまで働く人々個々人にフィードバックされるべきとの倫理感を組織側は意識することが肝要である。 (4) 組織の人間関係とコミュニティ間の意識交流とコミュニケーションを、「リアルオフィス」と「バーチャルオフィス」のハイブリッドスタイルで実践 当たり前の話ではあるが、組織とは仲良し友達グループではない。その組織が貢献し得る社会価値創造の目的(コーポレートビジョンとも言える)を共有する「人間集団」が組織社会を構成し、その組織に属する人々が、それぞれの立場(経営、社員・職員、補助的社員等)での役割を担いながら、さまざまな価値創造活動をする事が「仕事」と仮定義してみよう。そして「仕事」を推進してゆく物理空間の「場」がオフィスと考えてみると、オフィスに集う働く人々が共助、協力しながら、それぞれの職務を遂行してゆく組織の日常がある。そして、その組織ミッション遂行の過程において、働く人々一人ひとりの個性を尊重しながら、良質で良好な「人間関係」を築き、合同的に価値創造を推進してゆく事が求められる。日常的に、働き暮らす人々(役職社員や従業員等)が、組織内外との交流価値やコミュニケーション価値を高めてゆくには、相互かつ集団での円滑な「意識交流」と「コミュニケーション」を実践し得る「場」のデザインや工夫をオフィスに実装してゆく事も重要である。 「場」の設計にあたっては「コミュニケーション」の本質を理解し、「リアル場たる物理オフィス」ともに、ネットワークを介した「デジタル・バーチャル場」での知の交流や情報共有、そして作業効率や処理的業務の創意性を高めてゆく、ハイブリッドスタイルでの共創場構築思考が求められる。 以上が、筆者の体験と経験を通した「職場型クリエイティブオフィス」の挑戦事例と在り方のコンセプトデザインの概要である。 本稿のテーマである「未来型コミュニティオフィス」とは『職場型オフィス』概念の派生系の一つであるが、オフィスの本質的な在り方や機能、そして「場」という考え方においては共通する点も多い。 最後に、「未来型コミュニティオフィス」が紡ぎ出す人類知共創の概念と、全人類視点でのユーフォリア(幸福な社会)実現の世界観と実現への道筋を、SDGsの理念と合わせながら論考する。 10.未来型コミュニティ・オフィスコンセプトが繋ぐ人類知共創の世界とソーシャル・ハピネスの実現 本稿では、未来型オフィスの考察を試みた。 オールドノーマルでのオフィス定義は「決められた時間と決められた場所で、人間が集合し交流しながら働く場所」的な解釈がされていた。筆者の私見ではあるが、このオフィス概念は、ニューノーマル社会では、多様でフレキシブルな「人間の活動場」としての概念にトランスフォーム進化を続けてゆくと考えている。いわば「フレキシブルオフィス」への進化ともいえる。 その新概念は、人間社会の多様なコミュニティを繋ぐ「社会場」としての機能、そして、働き暮らす人間個々の集団が、人生幸福意識(わくわく)を共有しながら共存・共生し、社会価値を創造してゆく「共創意識の場」としての役割、更には、働き集う人々が、快適で想像性に富む空間の中で、人生の「居場所」としての「喜びや安心感」を感じられる「心の交流場」としての存在となることにある。 現場や現業で働くエッセンシャルワーカーは、原則的に「組織単位」や「業務単位」で区分された「指定場所」で働く事が一般的である。一方で、非現業型でナレッジ事務職仕事に携わる人々は、パンデミック環境での「在宅勤務」が浸透した事に加えて、必ずしも同一組織や集団が「占有」ないし「指定」する「固定場所」で、仕事(価値創造活動)をする必要性が薄れてくることも予想される。 この流れの一つであるWAA (Work from Anywhere and Anytime)と呼ばれているスタイルが普遍化してくると、WAAの概念がオフィス概念の一部を変質させつつある時代となっている。 ワークスタイルは、よりフレキシブルになり、「社会の仕事観」にバリエーションを与えるであろう。しかしながら、忘れてはならない重要な事がある。それは、共通する組織目的や社会目的を持つ人間同士が、リアルに意識交流し、個々人の暗黙知を、組織レベルで形式知化させてゆく知的コミュニケーションを促す「社会場的リアル時空間」が不可欠であるということ。このWAAと人間意識交流場がウェルバランスされた「人間✖️時空概念」が、広義のソーシャルオフィスといえる概念である。 一般的に、非現業型でナレッジ事務職仕事に携わる人々にとっては、自分自身のパフォーマンスが最大化できるワークスタイルや、ワークプレイスの選択を、臨機応変かつ自律的にセルフデザインする事は簡単ではない。 そこで、組織(雇用者)側または社会が、非現業型でナレッジ事務職仕事に携わる人々が、潜在的な能力を有効に発出できる「心理的安全性」に満たされた「場」を提供できたとしたらどうであろう。 また、組織に於いて、事業創造やイノベーティブ価値を創出する労働者(クリエイター等)にとって、「最高のパフォーマンス」を発揮できる「共創的な場」を演出できたとしたら、組織の創造的生産性は格段に向上することが期待できる。更には、働く人々の「心身健康」と、「健康で幸福を意とする「健幸人生」を醸成してゆく「ウェルビーング の場」を、安心・安全性に配慮しながら実現してゆく事は、SDGs目標の中で謳われている「ディーセント・ワーク(Decent Work)」目標を始めとした、世界平和と人類幸福を希求するSDSsフィロソフィーに合致した理念とアクションプログラムでもある。 あらためて、筆者が考える未来オフィスの在り方とは、組織を越境した人々が集い、 お互いの息遣いを感じ、ノンバーバルコミュニケーショ ンができる『気』(活気、熱気、意気、才気、士気)や『オーラ』を交信しながら、安心、安全そして「人間愛」と「幸福意識」を直接感じられる時空間でのリアルタイム交流により、社会価値創出の喜びを共感できる「場」であるべきと考えている。 筆者は、社会の「場」つくりに関与している実務家の一人として、これからもソーシャル・ハピネスを共創してゆく「ヒューマン・コミュニティオフィス」のプロデュースに携わってゆきたい。